長崎地方裁判所 昭和33年(わ)227号 判決 1959年4月27日
被告人 栗戸倉市
大九・一・六生 船員
主文
被告人を懲役三年に処する。
但し、本裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
押収にかかる出刃包丁一丁(昭和三十三年(合)第四〇号の一)は、これを没収する。
訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、さきにその留守中、妻Aが、加津佐町の肩書自宅で、同町内に居住する下田早苗から強姦され、更にその後も右の事実を種に同人から脅迫されて金員を要求された事を知り心中大いに煩悶したが、世話人の仲介のもとに、下田が非を認めて当分の間加津佐町から立ち退くことを約したので、一応の解決を見るにいたつた。ところが、被告人は、その後、下田が右約束に反して相変らず同町内に居住していることを知つて憤激し、下田との間に話をつけようと考え、昭和三十三年五月二十一日午後九時三十分頃、長崎県南高来郡加津佐町西宮野町己二千八百二番地の下田方に赴き、同人に対して、何故約束を守らぬかと難詰したところ、同人が謝まる気配も見せず応対したため、これに激怒した被告人は、右下田を殺害する結果となるも敢えて辞せぬ意図のもとに、同所において、所携の出刃包丁(昭和三十三年(合)第四〇号の一)をもつて、同人の腹部等を突き刺し、よつて、同人を、翌二十二日午前一時頃、同町厚生病院において、右腹部刺創による出血多量のため死亡するに至らせて殺害したものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
被告人の判示所為は、刑法第百九十九条に該当するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で、被告人を懲役三年に処する。但し、判示犯行の動機のほか、被告人は、本件犯行後非を悔いて、遺族に対する慰藉料の支払いなどに真摯な措置を講じ、被害者の遺族の感情も今は宥和していると認められること、被告人の平常の素行(たとえば、被告人は、昭和二十三年頃、海上遭難者四人を救助したような事実も認められる。)及び被告人は現在肺結核で療養を要する身であることその他諸般の情状を考慮し、同法第二十五条第一項第一号により、本裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
押収にかかる判示出刃包丁一丁(昭和三十三年(合)第四〇号の一)は、被告人が本件犯罪行為に供し、かつ、犯人以外の者に属しないことが明らかであるから、同法第十九条第一項第二号、第二項本文により、これを没収する。訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により、全部被告人の負担とする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 臼杵勉 関口文吉 岡野重信)